2015年9月26日土曜日

ザハがやりたかったこと

一年ほど前、あるソフトウェアの会社にボロノイに関してのプラグインは有りませんか?と問い合わせたことが有った。

建築構造にもFEMの考え方が一般化し、さらには荷重と形状の制限内で構造体の適正配分が可能になった今、それを実現させるための素材配分方法としてボロノイが必要になってくる、と考えていたからだ。後日、良く調べるとそれに近いプラグインが有ったので、今はごまかしながら試用している。
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このビデオは自然物の細胞の形状から、その「有るべき適正な形」を模索するもの。純粋な細胞工学の物ではないが、サーフェースや構造を効率的に考える物として「あり」だなと思う。
面白いのは、ボロノイと一般サーフェースをリラックスさせている事。(リラックス=力を馴染ませると言う感じかな)最終的に使用しているのは、多分autocad系ソフトウェアのあのコマンドだ(笑)

このボロナックスの考え方は自然界に習って均一素材の配分という事に基づいている。だが、確かに自然界では単一な素材でのみの構成なのだが、人間は強度の違う物を組み合わせる事が出来る。それをクリアすると更に良くなるだろうと思う。

例えば骨格。骨の細胞は「骨」しか作りだせない。つまりは単一な素材。しかしながらその単一素材を縦横無尽に使い、密度や形状を変えながら非常に合理的な動作の組み合わせまでに創り上げている。

そしてその断面は、構造計算の公式で解ける形状の物は一つもない。元々今までの構造計算は「計算しやすい仮説」を解いているのであって、骨細胞が作りだした自然の摂理の物ではないのだ。

人間は、ようやくそれを解ける入口まで来ている。有限要素と時系列3Dシュミレーション。これが汎用化された今、それにチャレンジする人も数人見かけるようになった。ようやく構造は自然を越えられるかもしれない。キーは異強度剛性。これがクリアできれば、ようやく建築も医学に貢献できるのだろうね。



ザハの近年の動きを見ていると、どうやらこれをやりたいらしいのだ。他にデザインした小物もこの一連にある。

課題は有機的形態に数学的根拠が与えられるか、と言った所なのだがその手順が、発生した形にこだわるあまり、摂理を超えていきなり「神の手」になってしまう。
 
多分それは、彼女をアシスタントしているCGデザイナーが、「グラフィックデザインとしてのCG枠」を超えられないので上手く到達できないのだと思う。単純にイメージした形と力学的形状とは違うのだ。ソフトの限界が発想の限界になっている。

こう言う事は最近多くなっている。
日本の有名建築家の例だが、アシスタントがCGソフトのRhinoceros(ライノセラス)の達人。
それでその有名建築家はそのソフトの中にある、グラスホッパーと言うプラグインが作りだした形状が「作風」となったりしている。

つまり使ったソフトが「作風」となる時代。
昔、デザイナーが「フォトショップでやった」と「自分の技?」を自慢してた時代が有った。
フィルターコマンド止まり・・・(笑)
笑うべきか嘆くべきか、それとも必然なのか、とても迷う(笑)


ザハのあの案にあったキールアーチは建築骨格としては矛盾は無いのだが、それを成立させる為の「あるべき形状」がサポートされていない。日本の設計業界の修正案はさらにその下を行く物だった。

もしも日本の設計チームに、京大のプログラミングアーキテクチャー研究グループなどがサポートしていたら、修正案はよりザハの案に近い合理的なものになっていたと思う。(下記ビデオと近い事をやっている)

これは140mの梁の合理的構造形状の逆解析。力と荷重条件から適した形を求めていく計算。
形状制限を変えたり異強度素材であればまだまだ違う形状になる。
日本では藤井大地氏が同じアルゴリズムを書籍で紹介している。



多分それでもゼネコンは反発するだろう。
「実際にはどう作るのだ。型枠や表面仕上げはどうするのか」

僕ならこう答える。
「3D分割サーフェース膜に吹付GFRC。キールアーチ構造も同一強度同一断面のソリッドな素材で有る必要がすでにない。」

一連の残念な結果は、運営側だけに有るのではない。
建設技術コーディネーターが弱かったんじゃないかと思う。

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ザハ・ハディットが悪いのではなく・・・

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